(ネタバレ注意)映画「ファーストキス 1ST KISS」をみてきました。

塚原あゆ子さん監督、坂元裕二さん脚本の映画「ファーストキス 1ST KISS」をみてきましたので、感想を書いていきたいと思います。
「ファーストキス 1ST KISS」は、いわゆる「ループもの」のお話です。主人公である硯カンナは「夫の死を回避する」という目標をもってタイムトラベルを繰り返し、未来を変えようと奮闘していきます。
本作品は、夫である駈が列車に轢かれて死ぬという衝撃的な始まり方をします。当初はかなりシリアスな雰囲気の映画なのかなと思ったのですが、わりとコミカルなシーンも多く、その点は僕の好みでした。主人公のカンナにちょっと抜けているところがあったのも、雰囲気があまり重苦しくならずに済んだ要因のひとつだと思います。なお、僕が特に笑ったのは、かき氷屋の後ろで並ぶ2人の女子が「彼はお前に恋しているんだ」と言ってくるシーンです。それまで2人はトゲトゲした態度ばかりでしたので、急に応援側に回るというギャップが面白かったです。
本作品のハイライトは、2人がホテルのソファに座って語り合うシーンだと思います。駈の命を助けるために自分との結婚を避けるべきだというカンナ。そんなカンナに対して駈は、「君と結婚したい」と語ります。このシーンは、俳優である松村北斗さんの演技のうまさもあってとても印象的でした。自分は男性なのですが、それでも「この人、かっこいいな」と感じました(笑)
さて、僕が本作品で特に良いなと思ったのは、未来が変わった後の世界ではカンナのほうも変化していることが見えた点です。カンナの奮闘によって、駈はきっと自身の言動を反省しながら結婚生活を過ごしたことでしょう。ただ、もしもカンナ側が全く変化していないようであれば、「駈が頑張ってカンナを幸せにしたのだ」という陳腐な物語になってしまっていたと思います。
未来が変わる前のカンナは、「見ず知らずの人のために自分を犠牲にするなんて馬鹿馬鹿しい」という価値観を持っていましたし、そうやって死んだ駈に対して怒りの感情を抱いていました。しかし、未来が変わった後の世界のカンナをみてみると、もちろん駈が死んだことを悲しんでいるのですが、「見ず知らずの人のために自分を犠牲にするなんて、バカだ」といった怒りの感情があまりないように感じられました。その世界では2人の関係は良くなっていたことを考えると、なおのこと突然夫がいなくなったことへの混乱、怒りが強く出てきそうなものです。しかしそうならなかったのは、カンナも考え方が変わったからではないだろうかと僕は思います。「見ず知らずの他人のために自分を犠牲にするのは違うと思う」という彼女の価値観まで大きく変わったのかは分かりませんが、少なくとも、「夫は困っている人がいたら自分をかえりみず助けずにはいられない人間なのだ」と認め、それを尊重しようという思いはあったのではないでしょうか。だからこそ、突然の別れとなっても激しい混乱には陥らずに済んだのではないかと思いました。
彼女が変わったエピソードとしては、餃子が届けられる最後のシーンも大変良かったです。冒頭でも餃子のシーンがありますが、この時の彼女は「自分が自分のために注文しておいたのだ。ラッキーだ」と考えます。しかし、未来が変わった世界での彼女は、「きっと駈が頼んでくれていたのだ。ありがたい」と考えます。実際のところ、どちらの世界においても真相は分からないままです。しかし、同じ状況であるにもかかわらず、カンナの考え方は大きく変わっている。そのことが些細な日常の一部分として描かれていて、とてもうまいなあと思いました。
本作品のラストは、切ないものだとみることもできるでしょう。しかし僕は、2人がより納得できる人生を歩むことができたのだという意味では、ハッピーエンドとみることもできるのだと思いました。映画終了後はすがすがしい気持ちで映画館を後にすることができました。
少し気になった点を1つあげてみますと……。未来が変わった世界での2人が、いかにしてより良い関係を築くことができたのかを見たかったなと思います。
作中では、「結婚してからはお互いの欠点が目につき、それを指摘し合うようになってしまうのだ」という問題が繰り返し語られます。実際、全く価値観の異なる2人が良い関係性を作り上げていくのは、とても大変なことだと思います。たとえ夫が「今度こそ良い関係性を作らなきゃ」と思っていたとしても、片方だけの努力だけでなんとかなるものではないと思います。実際、ラストのカンナをみれば、彼女も良い意味で大きく変わっていることが分かります。駈と生活し、彼の価値観に触れることで、彼女側でも考えたこと、努力したことが沢山あったでしょう。そこはこのストーリーの中ではとても大切な部分だと思ったので、ぜひ描いてほしかったです。例えば、日常での象徴的なワンシーンを切り取って提示するなどがあると個人的にはより良かったのではないかなと感じました。
だいたいこんなところでしょうか。
松村北斗さんが出演しているために見ることにした映画でしたが、想像以上にとても良い体験ができました。
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