ノベルゲーム「世界で一番不幸せな子ども」をプレイしました。

浦田一香さんの新作ノベルゲーム「世界で一番不幸せな子ども」をプレイさせて頂きました。僕は1時間30分ほどで最後まで読了できました。
以下、ネタバレ注意でお願いします。










「世界で一番不幸せな子ども」は将臣と理美、そしてあかりとの3人の歩みを中心に描いた物語です。
本作品の最大の特徴は、特別養子縁組という制度をテーマに据えたことだと思います。
お恥ずかしいことですが、僕は特別養子縁組の存在をあまり知らず、読む前は里親と養子縁組の違いすら曖昧でした。そんな僕でしたが、本作品では特別養子縁組の制度がどのようなものであるかが丁寧に描かれており、大変分かりやすかったと感じました。個人的には、「真実告知」はなるべく早めに行うといった考え方は新鮮でした。当初はそのことに驚きもありましたが、いずれ子供は知ってしまうのは避けられないし、早めがいいのでしょうね。また、告知を行うことで「親子で一緒に乗り越えて行こうね」というメッセージになるという話も聞いて、なるほどなと勉強になりました。
この特別養子縁組だけでも様々なドラマが描けそうなテーマだと思うのですが、将臣達につきつけられる課題はそれにとどまりません。ストーリーの中盤、母である理美が突如亡くなってしまいます。これによって、主人公とあかりは、特別養子縁組に伴う課題と、ひとり親であることに伴う課題の、2つに直面することになります。個人的には、このあたりから物語に一気に引き込まれました。彼らの歩みは時系列に沿って丁寧に描かれますが、その途中で多くの困難に直面します。僕が特に良かったと思うのは、幼少時のあかりが「お父さんに捨てられるかもしれない」と良い子としてふるまおうとするシーンと、あかりが「お父さんは月経のことを知らないでしょう!」と将臣を責めるシーンです。彼らの葛藤は深く共感できるものであり、それ故に強く心に響きました。

なお、本作品では立ち絵がありませんでしたが、タイトル画面やあかり誕生時のシーンでイラストが登場します。素朴で温かみのある雰囲気は将臣の善良な人柄にも合致していて、とても良かったなと思います。


なお、個人的に気になったところも書いてみます。
先述の通り、本作品は特別養子縁組について学ぶことが出来る点が素晴らしいのですが、一方で、物語としてはやや薄味であったように感じました。
本物語の中では、15年以上という長い年月が経過します。また、特別養子縁組という制度は知らない読者も多く、その説明を丁寧に行う必要もあっただろうと思います。さらに、将臣らはひとり親であるが故の課題にも直面しており、その苦悩も描かれています。このように、書くべきものがかなり多い本作品ですが、それ故か、登場人物たちのひとつひとつの葛藤はわりとさらっと描写されてしまっていたように感じました。
個人的な印象ですが、この物語の中でキモとなるのは、あかりの成長と共に生まれてくるいくつかの葛藤だったと感じます。こうした葛藤の揺れ動きをもう少し深堀りしてくれるとより嬉しかったなと思います。例えば、(作者様が書きたいものとは違ってしまうかもしれませんが)あかりが思春期をむかえるあたりを冒頭にしてみると、将臣とあかりの葛藤を丁寧に描くことができるし、ストーリーがより引きしまったかもしれないな、とも思いました。



気になったところも書いてしまいましたが、特別養子縁組という制度を真摯に描いた個性的な作品であり、とても良い読書体験ができました。ありがとうございました。

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