ノベルゲーム「親愛なる孤独と苦悩へ」をプレイしました。
久しぶりのブログ更新になりますね。今回はノベルゲーム「親愛なる孤独と苦悩へ」をプレイいたしましたので、その感想を述べたいと思います。ひとりで制作されたというのが信じられないほどの素晴らしい作品です。僕はというと、個人的な事情でかなり心に響くところがあって、大いに心を揺さぶられました。かなりの長文となりましたが、よろしければお付き合いください。
以下、ネタバレ注意。
本ゲームは、苦悩を持つ登場人物らがカウンセリングを通じて心を成長させていく物語です。「カウンセリングノベル」とでも言うべきでしょうか。まずは目新しいその構成に驚きました。
プレイしていてずっと感じ続けていたのは、たいへん丁寧に作られたゲームなということです。例えば人物描写。ひとりひとりのキャラクターが生き生きと描かれていて、その息遣いすらも聞こえてくるようでした。主要メンバーはそれぞれ異なる悩みを抱えていますが、その心理が変わっていく様は非常に丁寧に描かれています(一部、やや冗長に思えることもありましたが)。彼らが本当の自分の思いに気づくシーンは、いずれも感動的でした。
また、まこちゃんとのカウンセリングは、かなり読みごたえがあります。「どうすればこの苦悩を軽減できるのだろう」、「この問題に、まこちゃんならどう答えるのだろう」。そんなことを思いながらワクワクしながら読み進められました。個人的に、まこちゃんはかなり優秀なカウンセラーさんだと感じます。余談ですが、これだけ具体的でかつリアリティのあるやり取りを描写するには心理学の知識がかなり必要と思われます。作者さんはいったい何者なのだろうと考えながら読んでいました。
そして、特筆すべきはやはり後半の展開だと思います。正直に言うと、後半で明かされる事実にはやや唐突な感じがして戸惑いました。しかし、最後はそれもどうでもよくなってしまうくらいの素晴らしい展開を見せてくれます。我々は皆、様々な孤独や苦悩を感じながら生きているわけですが、本作品は「それで良いのだ」と語りかけてくれるようでした。
ほか、細かな伏線がたくさん散りばめられていたのも個人的には好みでした。携帯電話に関するあんな些細な描写がまさか伏線とは、と驚きましたね。様々な要因で読者を楽しませる工夫も施されていたと思います。
さて、冒頭にも申し上げましたが、僕は個人的な事情で本作品に強く心揺さぶられました。まこちゃんという人物にかなり感情移入できたこと、そして、カウンセリングという仕事に僕自身少し馴染みがある事が関係しています。こうしたところについても少し書いてみます。
本作品で1番好きなキャラクターは、やはりまこちゃんです。彼女はつらい学生生活を送っていましたが、僕も少し似た経験をしたことがあります(彼女に比べればかなりマシですが)。あまり詳しく書くと引かれそうですが、僕も小学校、中学校、高校で良い思い出がほとんどありません。例えば中学校の頃。クラス内で毎日「肩パン」とか言ってクラスメイト数人から二の腕を毎日のように殴られていました。5秒間で僕の二の腕を何回殴れるかを競う遊びもあったりして、「こいつら、何が楽しいんだ?」といつも思っていましたね(笑) ただ、そうした経験自体よりも、先生が少しも助けてくれなかったことがつらかったのを思い出します。ついに皆の前で大泣きしてしまったことがあったんですが、その後先生から言われたのは「じゃあ握手をして仲直りして」だけでした。正直、仲直りはしたくなかったですねえ(笑) 高校に行っても「この中で一番ウザいのは誰だゲーム」という、遊〇王にでも出てきそうな闇のゲームを10人くらいの中でやらされたり。僕が自分自身と答え、1番ウザい人が満場一致で決定しそうになったら、「そこは空気読んで別の名前を言え」と迫られたり。
そうした日々を繰り返していると、自分もかなり煮詰まっちゃって。一時は「恨みのある人間を皆殺しにして自殺してやる」とか物騒なことも考えていました。
また、ここは自分の反省点でもあるのですが、そういうことを自分の家族に言うこともしなかったんですよね。
自転車の荷物を縛る紐、それを僕は自分自身を吊って千切ってしまったことがあるのですが、両親は「自転車で転んだ拍子に千切れた」という僕の嘘を信じているはずです。当時は「家族にまで惨めな自分を見せたら、いよいよ僕は終わりだ」とか考えていたように思います。
そうしたわけで、学校ではとにかく何事もなく終わってくれることしか願っていませんでした。学生生活を単に「しのぐ」ことしかしなかった僕は、周囲に比べてひどく人生経験が不足しています。いくつになっても人の目が気になって上手く話せませんし、今でも何かあるとすぐに「死んでしまおうか」と考えてしまう癖が残っています。こうした傾向は、程度の差はあれ一生続くように思っています。今では、あんな経験があるからこそ人の心に興味を持てるし、創作にも出会えたんだよな、と別の見方もできるようになったので、気持ちとしてはいくらか楽です。ただ、不当ないじめに遭う経験なんてなるべくしない方が良いのは間違いないと思っていますね。自分の子供には絶対にあんな思いをさせたくないです。
すみません、大きく脱線してしまいました。まあ、そんな経緯で学生時代を過ごしてきた僕は「悩み、苦しむ人に寄り添える仕事をしよう!」と思い、今の仕事を目指したんですよね。ですから、まこちゃんがカウンセラーを目指した流れはかなり共感できました。
さて、そうして今はまこちゃん達と似たお仕事をしている僕ですが、本作品で行われていたカウンセリングについても興味深く読むことが出来ました。
まず、市郷さんについて。彼のようなタイプのカウンセラー、実際にいます(笑) ただ、僕は彼のカウンセリングがあまり好きではありません。例えば、脳科学の話。自分が好きだからこそ言いたくなるのは分かりますけど、相手の状況をみながら話さないと駄目ですよね。特に、まこちゃんに対するアプローチでは、顕著に彼の欠点が出ていたと思います。あの時のまこちゃんに必要なものは、自己満足のカウンセリングをすることではなく、医療に繋げることだったと思います。自身の手に負えるかどうかを判断できないカウンセラーは危険です。例の言葉だけが問題だったと考えてしまうと、問題の本質を見失うと思いますね。
一方で、まこちゃんは良いカウンセラーだと思いますね。
まこちゃんのカウンセリングは、総じて共感できるところが多く、学ぶことも多かったです。概念を見つけ出し、介入するというアプローチは精神疾患がない人でも使える普遍的なものです。彼女のカウンセリングのシーンは、自身の問題を重ねてプレイしていた方も多いだろうと思います。
また、彼女の「しなやかさ」は特に見習いたいと思いました。途中マインドフルネスについてもちらっと言及していたりもしましたが、そうやって様々なアプローチ法を状況に応じて提案できるという姿勢が素晴らしいです。クライアントは、こうしたカウンセラーの様子を見ると、安心感を得られやすいはずです。彼女もたくさん勉強したんでしょうね……。「苦しい経験をした人間だからこそ担える役割もあるのだ」と思うと、自分も救われた心地になります。
一方で、自分とまこちゃんでは考えが異なるところもいくつかありました。
1番の違いは、「100%あなたの味方をします」といきなり告げてしまう点でしょうか。この発言、安心感を与えますし、多くの人には有効です。おそらく、冒頭でこう伝えなさいと教えているところもあるのでしょう。ただ、影響力の強いこうした言葉は、一部の人にはむしろ有害です。依存と退行を起こしうる言葉だからです。例えばクライアントが「今日は私を傷つけることばかり言う人を連れてきたから、ちゃんと私に気を遣えと説教して。私の味方なんでしょう?」なんて言ってきたら、対応に困りそうです(笑) 自分とまこちゃんとでは、役割、介入する対象者が違うことも影響していると思いますが、「100%味方をする」という効果の強い言葉を「処方」するのは、相手を見てそのメリットデメリットを十分勘案してからでも遅くないのかな、と思いました(ただ、「どんな相手であろうともその感情には100%寄り添おうとするべき」というのであれば、その通りだと思います)。
しかし、こうしてカウンセリングの手法についても細かく考察できることを考えると、本作品のクオリティが恐ろしく高い事を改めて感じます。本当に、作者さんは何者なんだろうか……。
だいたいこんなところでしょうか。
本作品には大きく心揺さぶられてしまい、その分個人的な話も多くなってしまいました。クオリティの高いゲームとして非常に楽しめましたし、今後の自分の人生についても考えさせてくれる作品でした。加えて、「ひとりでもこんな素晴らしい作品を作り上げることが出来るんだな」という意味でも感動しました。読了には15時間程度かかりますが、大変充実した体験ができるゲームでした。もしも未プレイの方がいたら、是非プレイしてみてください。
「ノベルゲーム感想一覧」へ
「このブログについて」へ
以下、ネタバレ注意。
本ゲームは、苦悩を持つ登場人物らがカウンセリングを通じて心を成長させていく物語です。「カウンセリングノベル」とでも言うべきでしょうか。まずは目新しいその構成に驚きました。
プレイしていてずっと感じ続けていたのは、たいへん丁寧に作られたゲームなということです。例えば人物描写。ひとりひとりのキャラクターが生き生きと描かれていて、その息遣いすらも聞こえてくるようでした。主要メンバーはそれぞれ異なる悩みを抱えていますが、その心理が変わっていく様は非常に丁寧に描かれています(一部、やや冗長に思えることもありましたが)。彼らが本当の自分の思いに気づくシーンは、いずれも感動的でした。
また、まこちゃんとのカウンセリングは、かなり読みごたえがあります。「どうすればこの苦悩を軽減できるのだろう」、「この問題に、まこちゃんならどう答えるのだろう」。そんなことを思いながらワクワクしながら読み進められました。個人的に、まこちゃんはかなり優秀なカウンセラーさんだと感じます。余談ですが、これだけ具体的でかつリアリティのあるやり取りを描写するには心理学の知識がかなり必要と思われます。作者さんはいったい何者なのだろうと考えながら読んでいました。
そして、特筆すべきはやはり後半の展開だと思います。正直に言うと、後半で明かされる事実にはやや唐突な感じがして戸惑いました。しかし、最後はそれもどうでもよくなってしまうくらいの素晴らしい展開を見せてくれます。我々は皆、様々な孤独や苦悩を感じながら生きているわけですが、本作品は「それで良いのだ」と語りかけてくれるようでした。
ほか、細かな伏線がたくさん散りばめられていたのも個人的には好みでした。携帯電話に関するあんな些細な描写がまさか伏線とは、と驚きましたね。様々な要因で読者を楽しませる工夫も施されていたと思います。
さて、冒頭にも申し上げましたが、僕は個人的な事情で本作品に強く心揺さぶられました。まこちゃんという人物にかなり感情移入できたこと、そして、カウンセリングという仕事に僕自身少し馴染みがある事が関係しています。こうしたところについても少し書いてみます。
本作品で1番好きなキャラクターは、やはりまこちゃんです。彼女はつらい学生生活を送っていましたが、僕も少し似た経験をしたことがあります(彼女に比べればかなりマシですが)。あまり詳しく書くと引かれそうですが、僕も小学校、中学校、高校で良い思い出がほとんどありません。例えば中学校の頃。クラス内で毎日「肩パン」とか言ってクラスメイト数人から二の腕を毎日のように殴られていました。5秒間で僕の二の腕を何回殴れるかを競う遊びもあったりして、「こいつら、何が楽しいんだ?」といつも思っていましたね(笑) ただ、そうした経験自体よりも、先生が少しも助けてくれなかったことがつらかったのを思い出します。ついに皆の前で大泣きしてしまったことがあったんですが、その後先生から言われたのは「じゃあ握手をして仲直りして」だけでした。正直、仲直りはしたくなかったですねえ(笑) 高校に行っても「この中で一番ウザいのは誰だゲーム」という、遊〇王にでも出てきそうな闇のゲームを10人くらいの中でやらされたり。僕が自分自身と答え、1番ウザい人が満場一致で決定しそうになったら、「そこは空気読んで別の名前を言え」と迫られたり。
そうした日々を繰り返していると、自分もかなり煮詰まっちゃって。一時は「恨みのある人間を皆殺しにして自殺してやる」とか物騒なことも考えていました。
また、ここは自分の反省点でもあるのですが、そういうことを自分の家族に言うこともしなかったんですよね。
自転車の荷物を縛る紐、それを僕は自分自身を吊って千切ってしまったことがあるのですが、両親は「自転車で転んだ拍子に千切れた」という僕の嘘を信じているはずです。当時は「家族にまで惨めな自分を見せたら、いよいよ僕は終わりだ」とか考えていたように思います。
そうしたわけで、学校ではとにかく何事もなく終わってくれることしか願っていませんでした。学生生活を単に「しのぐ」ことしかしなかった僕は、周囲に比べてひどく人生経験が不足しています。いくつになっても人の目が気になって上手く話せませんし、今でも何かあるとすぐに「死んでしまおうか」と考えてしまう癖が残っています。こうした傾向は、程度の差はあれ一生続くように思っています。今では、あんな経験があるからこそ人の心に興味を持てるし、創作にも出会えたんだよな、と別の見方もできるようになったので、気持ちとしてはいくらか楽です。ただ、不当ないじめに遭う経験なんてなるべくしない方が良いのは間違いないと思っていますね。自分の子供には絶対にあんな思いをさせたくないです。
すみません、大きく脱線してしまいました。まあ、そんな経緯で学生時代を過ごしてきた僕は「悩み、苦しむ人に寄り添える仕事をしよう!」と思い、今の仕事を目指したんですよね。ですから、まこちゃんがカウンセラーを目指した流れはかなり共感できました。
さて、そうして今はまこちゃん達と似たお仕事をしている僕ですが、本作品で行われていたカウンセリングについても興味深く読むことが出来ました。
まず、市郷さんについて。彼のようなタイプのカウンセラー、実際にいます(笑) ただ、僕は彼のカウンセリングがあまり好きではありません。例えば、脳科学の話。自分が好きだからこそ言いたくなるのは分かりますけど、相手の状況をみながら話さないと駄目ですよね。特に、まこちゃんに対するアプローチでは、顕著に彼の欠点が出ていたと思います。あの時のまこちゃんに必要なものは、自己満足のカウンセリングをすることではなく、医療に繋げることだったと思います。自身の手に負えるかどうかを判断できないカウンセラーは危険です。例の言葉だけが問題だったと考えてしまうと、問題の本質を見失うと思いますね。
一方で、まこちゃんは良いカウンセラーだと思いますね。
まこちゃんのカウンセリングは、総じて共感できるところが多く、学ぶことも多かったです。概念を見つけ出し、介入するというアプローチは精神疾患がない人でも使える普遍的なものです。彼女のカウンセリングのシーンは、自身の問題を重ねてプレイしていた方も多いだろうと思います。
また、彼女の「しなやかさ」は特に見習いたいと思いました。途中マインドフルネスについてもちらっと言及していたりもしましたが、そうやって様々なアプローチ法を状況に応じて提案できるという姿勢が素晴らしいです。クライアントは、こうしたカウンセラーの様子を見ると、安心感を得られやすいはずです。彼女もたくさん勉強したんでしょうね……。「苦しい経験をした人間だからこそ担える役割もあるのだ」と思うと、自分も救われた心地になります。
一方で、自分とまこちゃんでは考えが異なるところもいくつかありました。
1番の違いは、「100%あなたの味方をします」といきなり告げてしまう点でしょうか。この発言、安心感を与えますし、多くの人には有効です。おそらく、冒頭でこう伝えなさいと教えているところもあるのでしょう。ただ、影響力の強いこうした言葉は、一部の人にはむしろ有害です。依存と退行を起こしうる言葉だからです。例えばクライアントが「今日は私を傷つけることばかり言う人を連れてきたから、ちゃんと私に気を遣えと説教して。私の味方なんでしょう?」なんて言ってきたら、対応に困りそうです(笑) 自分とまこちゃんとでは、役割、介入する対象者が違うことも影響していると思いますが、「100%味方をする」という効果の強い言葉を「処方」するのは、相手を見てそのメリットデメリットを十分勘案してからでも遅くないのかな、と思いました(ただ、「どんな相手であろうともその感情には100%寄り添おうとするべき」というのであれば、その通りだと思います)。
しかし、こうしてカウンセリングの手法についても細かく考察できることを考えると、本作品のクオリティが恐ろしく高い事を改めて感じます。本当に、作者さんは何者なんだろうか……。
だいたいこんなところでしょうか。
本作品には大きく心揺さぶられてしまい、その分個人的な話も多くなってしまいました。クオリティの高いゲームとして非常に楽しめましたし、今後の自分の人生についても考えさせてくれる作品でした。加えて、「ひとりでもこんな素晴らしい作品を作り上げることが出来るんだな」という意味でも感動しました。読了には15時間程度かかりますが、大変充実した体験ができるゲームでした。もしも未プレイの方がいたら、是非プレイしてみてください。
「ノベルゲーム感想一覧」へ
「このブログについて」へ
この記事へのコメント
今さらですが感想を読ませていただきました
友達は全身全霊でゲームを作ってたので、こうゆう感想はすごい喜ぶと思います
作者のものらす君はただの一般人ですよ
心理学の関係の本を何冊か読んで勉強してました
ゲームででてくる観念の話は、自分もよく聞かされてました
市郷さんは、まこちゃん、お兄さん、海君達にあんまり共感できないプレイヤーの方のためキャラクターなので、ああゆう感じにしたんだよって、作者のものらす君が言ってました
ようするに、ゲーム内の登場人物みんなが、まこちゃん側の人間になってしまうと、それに共感できないと思うゲームをプレイした人もいらっしゃると思うので、そうゆう人の為の市郷さんだそうです
作者のものらす君はゲーム完成させてすぐ死んじゃったので、こうゆう感想を読めないのはくやしがってると思います
この作品を生み出せるのはどんな方なのかにとても興味がわいたので、お教え頂けてとても嬉しいです。
並々ならぬ熱意をお持ちの方だったんでしょうね……。是非1度でいいからお話ししてみたかったです。
今更なのですが、矢野さんのtwitterもよく拝見しております。大切なご友人を突然亡くされた矢野さんのご悲嘆は、察するに余りあるものがあります……。
矢野さんの今後のご活躍もお祈りさせて頂きます。
改めて、コメントありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。