(ネタバレ注意)ノベルゲーム「あなたの命の価値」をプレイしました。

先日、浦田一香さんによるノベルゲーム「あなたの命の価値」をプレイさせていただきました。以下、ネタバレ注意です。
























「あなたの命の価値」は、児童養護施設で暮らす子供たちを描いた物語です。まずは、こうした舞台設定が個性的で興味深かったです。また、親から離れて暮らす子供たちの日常を真摯に描こうと努めていたことも好印象でした。こうした類の作品は、悲劇的な側面ばかりを強調して描いたりしてしまいがちだと思うのですが。本作品は、明るく、たくましく生きていこうとする子供たちの姿も描いていて、リアリティを感じました。

各登場人物の描き分けもよかったです。子供たちはそれぞれ異なる理由で施設で過ごしているのですが、彼らの性格形成がその生い立ちに大いに影響を受けているのが感じられました。好きな登場人物は、主人公と夏美かな。好きなセリフは、リリィの「誰かが許さないと、連鎖して終わらないんだよ」と、先生の「幸せとは、信じられること」ですね。あとは、先生が自分は子供を作らないことを告げるシーンが印象的でした。こういう風に思うスタッフはけっこういるのかもしれませんね。

この作品はマルチエンディングで、いずれもきれいに終わらせてくれるんですが、特筆すべきはやはり夏美エンドでしょう。主人公と夏美がお互いにその傷を見せ合って癒されていく、その過程がうまく描けていたと思います。「被虐待児は自尊心を失う」のはどうしてか。虐待の連鎖が生まれるのはどうしてか。そうした重要な部分にも説得力がありました。「幸せな家庭を持つ」という、一見平凡な願いがラストに成就するのですが、ここは感動的でしたね。

さて、少しだけ個人的なことも書かせて頂きますと。かくいう僕も、虐待を受けている方と関わる仕事をしています。虐待をする親を金銭的に援助するため、体を売っていた少女(彼女は親を嫌いになれず、親と同居し続けています)。必要な治療を親から受けさせてもらえない女性(病院ではなく、毎日温泉に連れていかれています)。悲劇的なケースもいくつか経験しました。本作品のバッドエンドに近いような現場に直面する事もあって、無力感を覚えることはしばしばです。こうした問題には親側の人権の問題が必ず付きまとうので、なかなかクリアカットに解決できないケースもあるんですよね……。行政の人間等も含めて皆で頭を悩ませた挙句「今は見守るほかない」と結論付ける事もあります。自分は、やれることをやっていくしかない。そう決めて仕事に取り組んでいる僕でしたが、本作品のおかげで「つらい思いをする子供をひとりでも減らさなければ」という思いを新たにできました。

後半は大分自分の事を語ってしまい、すみません。ただ、自分のこうした個人的な事情もあってか、実に印象深い作品でした。虐待の問題と真摯に向き合った良作だと思いますので、未プレイの方はぜひプレイしてみてください。

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